やる気ゼロ証券マンのメモ帳

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海事代理士の短期独学合格法について(筆記試験編)

※この記事は過去に私がnoteで公開したものを移植したもので、ほぼ同内容です。

note.com

 

要約

(1) 使用する教材は市販のテキスト1冊と、国土交通省のHPで公開されている無料の過去問及びインターネット上の法令検索で充分である。

 

(2) 過去問の中では正誤問題の誤りの選択肢について、何故その肢が誤りであるのかをよく学ぶことが最重要である。また、解き終えた過去問は法令順に並べ替えて、問題集として利用するとよい。

 

(3) 試験までゆっくりと時間を取れず高得点を狙えない場合は、65%の得点(156点以上)を目指すことで合格安全圏内に入る可能性が高いため、一つの目安にすると良い。

 

(4) 試験当日は多めに見積もって各時限の合間に合計4時間程度の勉強をすることが可能である。

 

1.導入

 令和元年の海事代理士試験に合格しました。この資格を受験しようと考えたことのある方はよくご存知かと思いますが、受験者数が年間400名程度とかなり少なく、市販されているテキストも種類が限られている上に質もイマイチ…という特有の対策のしにくさがある資格です。その上覚えなければならない法令の種類は20種類(令和元年より2科目追加となりました。詳細は後述します。)とかなりのボリュームがあり、また船舶法と船舶安全法という重要な2科目がカタカナ交じりの文語体条文と、これまたハードルを上げる一つの要因となっています。

    以下では短期間で本番の筆記試験に太刀打ちできるようになった方法をお伝えしていこうと思います。

 

2.使う教材

 テキストとしては海事代理士試験研究センターが発行・販売している『海事代理士必修テキスト(以下「必修テキスト」といいます)』のみ利用しました。

定番とされている『海事代理士合格マニュアル(以下「マニュアル」といいます)』は利用していません。というのも、マニュアルは過去問集であり、かつ解説等が一切無いというレビューを見たからです。過去問と答案については国土交通省のHP(海事代理士になるには - 国土交通省)において無料で閲覧することができますので、こちらを購入する意義はないかなと考えた次第です。一方で「必修テキスト」もあまり良い評判はなかったのですが、こちらは約2,300円とお手ごろで、中身は頻出条文の羅列ということで、コチラのほうがインプットには向いているなと思いました。

    ただ1点、必修テキストを利用される場合にはご注意いただきたいのですが、最新版(2019/9現在)が平成27年の刊行で内容が一部古いです。特に致命的なのは現在の港則法で「汽艇等」と呼ばれる種類の船舶を「雑種船」と記載している点です。雑種船から汽艇等へ名称変更されたので両者はほぼ同じものと考えてよいのですが、雑種船は未だに引っ掛けの選択肢として盛んに利用されているため、特に注意を要します。また、海商法については2018年5月に120年ぶり(!)の改正(法務省:商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について)があり、カタカナ文語体条文から口語体の条文になりました。特に文語体の条文に抵抗が無い方はそのまま必修テキストを利用しても良いかもしれませんが、内容自体の改正もありましたのでこちらは最新の情報をe-Gov法令検索あるいは市販の六法で学習されることをオススメします。なお、私は改正のことを試験終了後に知りましたが、特に問題はなく終えることが出来たのでホッとしています。
 海事六法を購入しないとは書きましたが、さすがに必修テキスト収録の条文のみでは厳しいことがありますので、e-Govを利用して適宜法律や施行規則を確認していました。「●●法」や「●●法施行規則」と入力すれば大抵は検索結果の最上部に出てきます。また、先述の過去問も直近5年分のみ利用しました。「必修テキスト」で網羅されていない平成27年、28年、29年及び30年の問題は特に重要と考え、じっくり取り組みました。

 

3.勉強法

 大枠としては以下の流れで学習しました。以下では一つ一つ詳細をお伝えしていきます。なお、私は法律系科目の学習経験は今年が初めてであって、行政書士試験をダブル受験するために憲法民法の対策はほぼしない、という前提条件があります。法学部出身の方などは更に短い期間で合格できるかもしれません。


①必修テキスト素読(インプット)→②必修テキスト暗記テスト(アウトプット)→③過去問取り組み(アウトプット)→④過去問答え合わせ(インプット)→⑤オリジナルの問題集への取り組み(アウトプット)→⑥新範囲への対応(インプット)

 どんな試験においても言えることだと思いますが、正誤判定問題の誤りの選択肢において、どの程度の「質」の誤りを出してくるのかということを、過去問などを解きながら体感していくと良いです。海事代理士試験では例えば「許可」を「認可」と入れ替える、「~することができない」を「~することができる」とするように肯定・否定形を入れ替える、似たような条文の表現を使って一部を入れ替えるなどのパターンが多く見られます。つまり、海事代理士試験は非常に「まとも」な問題が多いです。

 以下、上記の各ステップについてより詳細にご紹介します。

 

(1) 必修テキストの素読

 テキストの条文を順に素読していきました。船舶法と船舶安全法の文語体については、頭の中で現代語に直しながら読んでいくと楽になります。例えば以下のようなフレーズについては、ほぼ自動的にこのように訳してしまっても良いです。

 

「~スルコトヲ得(う)」=「~することができる」、「~スルコトヲ得ス(えず)」=「~することができない」、「能ハサル(あたわざる)」=「~することができない」、「~スヘシ(すべし)」=「しなければならない」、「~スヘカラス(すべからず)」=「~してはならない」、「~セサル(せざる)」=「~していない」、「於テ(おいて)」=「~で、~に」

 


 また、難読の漢字もいくつかありますが、一例として以下はこのように読みます。

 

「其」=「それ、その」、「之」=「これ」、「此」=「この」、「亦」=「また」、「但」=「ただし」、「雖モ」=「いえども」、「若クハ」=「もしくは」、「到著」=「とうちゃく」

 


 例えば「航海スルコト能ハサルニ至リタル時ハ」という文章は口語に直すと「航海することが出来ない(状態に)至ったときは」となり、「外国ニ於テ船舶ヲ取得シタル者ハ其取得地ニ於テ仮船舶国籍証書ヲ請受クルコトヲ得」という文章は「外国で船舶を取得した者はその取得地において仮船舶国籍証書を請求し、受け取ることが出来る」となります。

 

(2) 必修テキストの暗記テスト

 必修テキストは各課目の最終ページに当該科目の簡単な確認テスト(過去問からの出題)がついています。そこをさっと確認して全問正解できなければ改めて素読に戻り、正解できたら次の科目へ、とさっさと進めてしまいました。また、全科目の素読が終了した段階で暗記ペンを購入し、条文のページもテストに利用しました。

 

(3) 過去問への挑戦

 必修テキストの全範囲が終了したところで過去問に挑戦しました。しかし、「必修テキスト」では穴抜き形式の暗記テストしか行っていなかったため、正誤判定問題を殆どまともに解くことが出来ず、結果半分程度の得点しか取ることができませんでした。過去問は古いものから時代を追う形で実施していき、平成30年の問題は試験本番前日まで解かずに残しておきました。最終実力チェックの模試として利用するためです。

 また、過去問を解いていく上で見つけた情報はどんどんe-Govで検索して必修テキストに書き込んでいきます。例えば役に立ったのは、港則法における特定港以外の港則法適用港において、海上保安庁長官等に対して許可を求めなければならない行為の一覧です。「危険物の積込」がよく誤りの選択肢として利用されますが、正しくは危険物の積み込みを行う場合当該港において許可は必要ありません。(詳しくは港則法の43条をご参照ください)。このように、情報を足していくことで頼りがいのあるテキストに成長していきます。

 

(4) 過去問の答え合わせ

 初めてテストを通しで解いてみたときは惨憺たる結果でした。答え合わせを終えた後は主に正誤判定問題の特に「誤」に着目して答え合わせを行っていきました。正しい記述に関してはそれが正しい内容ですから、その記述そのものを頭に入れてしまえばよいのですが、誤りの記述に関しては自ら必修テキストの記述や条文を参照し、どこの部分が間違っているのかを書きこんでいきました。例えば港湾運送事業法で頻出の誤った文章として「港湾運送事業者は、国土交通省令で定めるところにより、運賃及び料金を定め、あらかじめ、国土交通大臣の認可を受けなければならない。」というものがありますが、この場合正しい条文は「認可」ではなく「届出」です。こうした作業を過去問を解くたびに行っていき、平成30年度の過去問題を最後の模試として解き始める前に何度も確認しました。なかなか骨の折れる作業ですが、条文を一々引くことで法律学習への免疫も出来てかなり実力がついたと思います。

 

(5) オリジナル問題集への取り組み

 オリジナル問題集といえば聞こえはよいですが、ただ過去問5年分印刷したものを法令順に並べただけです。平成26年憲法平成27年憲法、…、平成28年の国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律、平成29年の国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律という順番で印刷してホッチキス留めしたものを用意し、その問題文にバシバシ正当をオレンジ色のボールペン(赤シートで隠すときに赤ペンだとうっすら透けて見えてしまうのですが、オレンジ色のペンならば完璧に見えなくなるのでオススメです。)で書き込んでいきました。正誤問題の誤りの選択肢については文章の誤った記述にアンダーラインを引いて、その下に正しい記述を書き込みます。法律別に並べ替えてどんどん問題を解いていくと、繰り返し出題される条文がかなり存在することが非常によくわかります。少し面倒ではありますが、過去問を並べ替えてホッチキス留めして問題集を作成されることを是非オススメします。

 

(6) 新範囲への対応

 2019年度の試験より試験科目が追加となりました。領海等における外国船舶の航行に関する法律(以下「外国船舶航行法」といいます。)船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律(以下「再資源化解体法」といいます。)及びこれらの法律に基づく命令の2つです。それぞれ4時限目、3時限目に追加されました。
 これらの法令は過去問が全く存在しませんので、条文を素読する他に対処法がありませんでしたが、「初回だし難易度の低い記号選択問題と正誤判定問題のみが出題されて、記述式の穴埋め問題は出題されないだろう」という楽観的な観測で挑みました。結果として大凡そのとおりとなったので運がよかったです。これらについてはそれぞれ20点分でしかありませんので、旧来の範囲で7割程度取ることが出来ていれば0点でも合格圏内に達することができるため、旧範囲を終えてから2~3時間程度眺めるという軽い勉強に留めました。
 外国船舶航行法の条文はかなり短く、特別な対策は必要ありませんでした。e-Govの条文を素読しつつ、海上保安庁の出していた資料(https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/h20/k20080611/k080611.pdf)を読んでイメージをしやすくしました。「継続的かつ迅速に」というフレーズは絶対に出題されるだろうなと踏んでいましたが、どちらも選択式で穴抜きとなって出題されました。旧範囲を勉強していることによって出題されそうな重要ワードへの嗅覚がある程度できてきますので、軽い勉強でも高得点を取ることが出来た方が多いのではないかなと思っています。一方で再資源化解体法の条文は長いですが、いかにも重要そうなキーワードがふんだんに散りばめられており、穴抜き選択式のみを想定した学習であればかなり対策のしやすい科目でした。「特定日本船舶」や「有害物質一覧表」、また船舶法にも現れる「船級協会」などの目立つワードが多いからです。今回の試験ではこれらの概要について目を通すだけで満点を取ることが出来る内容でした。今後また法令が追加されるとしても、こういった方法で学習すれば恐れるに足りないものと思います。

 

4.試験の合格点について

 基本的には60%を取ることができれば合格となりますが、全受験者の平均点が60%を超えた場合は当該平均点を超えることが出来れば合格となります。ここで、過去の平均点を見てみましょう。数字の出所は日本海事代理士会のHP(http://jmpcaa.org/main/)です。カッコ内が平均点です。

 平成30年(64.18%)、平成29年(58.83%)、平成28年(57.38%)、平成27年(57.97%)、平成26年(56.08%)、平成25年(54.73%)、平成24年(57.90%)、平成23年(62.35%)

 

 データ数が少ないので信頼性は微妙ですが、この8年間のみを考慮すると平均点は58.68%、標準偏差(母集団推定値)は3.13%です。つまり95%区間の上側は64.95%(+2σ)となりますので、易化傾向が顕著である等の特殊な事情がない限りは、65%以上取れる状態にしておけば安全圏である可能性が高いといえます。今回の試験の満点は240点ですので、156点以上既に取れる状態であれば、追加された範囲にノータッチだったとしても合格できる可能性が充分にあると思います。だから何だと言われればそれまでですが、ギリギリの時間で合格を狙っている方は一つの目標にしても良いのではないでしょうか。なお、得点源として重要なのは口述試験でも出題される「船員法」、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」、「船舶法」及び「船舶安全法」の4つです。これらは最低でも15点、可能ならば18点を狙いたいところです。後ろの2つは先ほども書いたとおりカタカナ文語体で苦手な方も多いと思いますが、慣れてしまえば大したことはありません。

5.試験当日

 ご存知の方も多いとは思いますが、海事代理士試験は1時限目~4時限目まで分かれており、各時限の間の自由時間の間は外出が自由にでき、次の科目の勉強が出来ます。1・2時限目はそれぞれ4科目、3科目と数が少ないので、10~15分もあれば完答が出来ると思います。30分経過した時点で退室ができます。3時限目は科目数が多く大変ですが、30分以内に完答することが難しいわけではありません。いかに早くテストを切り上げて次の時限の準備に時間を割くか、ということがポイントになると思います。
 関東受験の方にだけお伝えできることですが、横浜合同庁舎の周りは意外とカフェの類が少なく、手ごろに時間を潰すことが難しいのです。が、庁舎1階のカフェはどの時間に行っても意外と空いていますので、毎休憩時間ごとに入るのもアリです。コーヒー1杯で300円程度だったと思います。お金を使いたくない方は当日の気候条件さえよければ、庁舎近くの北仲通北第二公園のベンチも気持ちよく、おすすめです。
 さて、具体的な当日のスケジュールは以下のとおりでした。

1時限目 9:00~10:30(1:30)
 休憩① 10:35~10:45(0:10)
2時限目 10:50~11:50(1:00)
 休憩② 11:55~12:55(1:00)
3時限目 13:00~15:10(2:10)
 休憩③ 15:15~15:25(0:10)
4時限目 15:30~17:40


 一目瞭然ですが、インターバルがかなり長いです。仮に各科目30分で退室した場合の休憩時間は以下のとおりとなります。

休憩① 1:10休憩② 1:30休憩③ 1:50


 つまり、最大で合計4時間30分を勉強に充てることができます。実際は食事や移動の時間を加味すると4時間弱になってしまうと思いますが、普段の基準で考えてみると1日4時間の勉強はかなり「しっかり目」に勉強する日の部類に入るのではないのでしょうか。この時間を有効に使えば得点のアップに相当寄与します。

 

6.最後に

 試験としての難易度は高くないのですが、取っ掛かりが悪く、また情報も少ないために突破しづらい試験かなと思います。しかし頻出の問題はある程度決まっていますので、過去問を繰り返し解くことで十分短期間合格を狙うことが可能だと思います。試験合格後は特に登録期限などもなく、好きなタイミングで海事代理士登録することができます。
  体験談と勉強指針とが入り混じった形でとりとめもなく書いてしまいましたが、指針が立てにくくて困っていた方のお力になれれば幸いです。