やる気ゼロ証券マンのメモ帳

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金融商品入門(株式編①)

1.はじめに

 新聞やテレビにおいて耳にすることが多い金融関係のニュースですが、難解そうな用語や概念が多用されるため、とっつきにくいイメージを持たれがちです。しかし順を追って学んでいけば決して難しいものではありません。

 基本的に金融の世界は「金融商品」と呼ばれる資産のやりとりによって成り立っています。したがって、金融の世界を理解するためには、理解のしやすい金融商品から学んでいくと効率的です。

 しかしひとくちに「金融商品」と言っても非常に多様な種類が存在します。中でも代表的な物は株式や債券、投資信託と言ったいわゆる「現物」の商品です。現物の対義語は「金融派生商品(=デリバティブ)」で、先物やオプションなどがあります。

 以後何回かに分けて、全ての金融商品を理解する上で重要となる現物商品、つまり株式と債券、そしてNISAや確定拠出年金によって身近なモノになりつつある投資信託について解説します。最終的なゴールは経済新聞のマーケット欄を読んで「こういうことかな?」とふわっと理解できるようになることです。

 なお、論理的厳密性に欠ける表現を多用していますが、直観的理解を優先するために、敢えてそういった表現に頼っていることをあらかじめご了承ください。また、しっかりとしたファクトチェックは行っていませんので、各自の責任の元正しい情報ソースに当たることを強く推奨します。

 

(1) 株式とは

 どれだけ金融商品に馴染みがなくともこれだけは知っている、聞いたことがあるという人が多いと思います。株式は最もポピュラーな金融商品の一つです。しかし株式が一体何かということをスラスラ説明できる人はそう多くないのではないでしょうか。株式と聞くと金持ちの娯楽、儲かるもの、損をして借金を抱えるもの、など様々なイメージが浮かぶと思います。株式は他の金融商品を学ぶ上でも重要な基礎をたくさん含んでいますので、順を追って理解していきましょう。株式は「誰の視点から見るか」によっても見え方が異なります。今回は「会社から見た株式」と「株主から見た株式」という切り口で解説していきます。

 

 ①会社から見た株式

 会社が事業を行っていく上では必ず運転資金が必要になります。個人商店のように小さな会社であれば、事業主自身の出資や家族、友人などから資金を集めて事業をスタートすることができます。しかし、規模の大きい会社ではそうはいきません。不特定多数の人々から多くの資金を調達する必要があります。そこで、お金を調達する手段が必要になります。最も簡単に思いつくものは銀行からの借り入れですが、借り入れた資金は必ず返済しなければならない、信用がなければ思うような金額を確保できないといった困難が伴います。そこで使われるのが株式です。1株いくらという金額(=株価)と発行する数量(=発行数量)を決めて、不特定多数の投資家(=出資者)を募って株式を買取ってもらいます。会社は投資家に株式を渡す代わりに代金を受け取り、その分の資金を調達できるのです。株式を発行して資金調達する形態の会社組織のことを「株式会社」と言います。ちなみに対義語は「持分会社」といい、乱暴に言えば小規模で身銭を切ってやる会社、というイメージです。

 「有限会社」というものも聞いたことがあるかと思いますが、現行法では「株式会社」として取り扱われています。かつては株式会社に比べて安価な資本金で作れることから意味のあった組織形態ですが、会社法の改正によって現在は資本金1円でも会社が作れるために実益を失いました。現在、新たに有限会社を作ることはできません。

 会社にお金を出してくれた投資家は株式の持ち主ですから「株主」と呼ばれ、会社に対して一定の発言権を持ちます。が、会社のかじ取り(=経営)を直接行うことはできません。つまり株式による資金調達とは、会社からすれば「金さえ出してくれるなら誰でも良い」という仕組みなのです。また、株式はあくまで「売却」しているわけですから、銀行からの借り入れとは異なって返済の必要はありません。よって株式の発行は会社が安定的な資金を確保するために有効な手段と言えます。

 もちろん出資者に何の見返りもないということはありません。会社は事業で儲けたお金の中から、一定の割合で株主に対して還元します。これを「配当」と呼び、通常は株主の証券口座に現金で振り込まれます。株価が1,000円の時に1株あたり20円の配当を行う会社であれば「配当利回りが2%」、という表現をします。一般に銀行利率より高い数字となり、株式を購入し保有する一つのインセンティブにもなるものですが、後に述べるように株式は銀行預金と異なり価格変動が激しく、株式自体の価値が購入した時から大幅に下落しうることには留意が必要です。配当に加え、自社製品や商品券、クオカードなどを株主に交付する「株主優待[1]」といった制度を活用する会社も多くあります。

 

 ②株主から見た株式

 ここで重要なことが一つあります。会社から見て「代金を返済しなくて良い」ということは、裏返してみれば株式を購入した投資家は会社に対して「株式を返すからお金を返してくれ」とは言えないということです。しかし、それでは投資家があまりに不利です。どうしても手元の株式を手放して現金が欲しくなることもあるでしょう。会社が株主からの買取り請求に応じない以上、他にその株式を買い取ってくれる人を見つけて買取ってもらわなければなりません。ですがこうして自力で買ってくれる人を探すことはあまりに困難です。最初に出資してくれたような人はその会社をよく理解して納得した上でお金を払っているはずですが、世の中によくわからない会社の株式とお金を交換してやっても良いという人は多くないはずです。一般に高額な買い物である株式の売買ですから、買い手が見つかったとしても足元を見られて安く買い叩かれるであろうことは容易に想像できます。このように現金と交換することが難しい、という状態を「流動性が低い」と表現します。

 そこで、一定の要件を満たした会社についてはいわゆる「株式市場」である「取引所」に株式を上場[2]できるという仕組みが用意されました。取引所には絶えず株式を売りたい人・買いたい人が集まっているため、投資家たちはお互い相手の顔も知らないまま株式の値段だけを参考にして売買をすることができます。要するに会社に出資してみたい人が、将来購入した株式を現金化したくなったときのことを心配することなく、気軽に出資できる環境が備わったということです。換金がしやすくなったということは「流動性が高い」状態になったとも言えるため、取引所の役割は流動性を提供すること、と表現されることもあります。

 また、一度株式が投資家の手に渡れば後は彼らが勝手に取引所を通じて株式のやり取りをしてくれるので、会社も「株を買い取ってくれ」と言われたりする心配もありません。

 しかし、万人が直接取引所にアクセスすることはできません。取引所での取引資格を持った証券会社のみが取引所で株式の売買を行えます。個人などは証券会社に口座を作り、注文を中継ぎして貰うことで株式を購入することができます。

 ちなみにかつては株式に実際の券面(=株券)が存在したため、取引所に証券会社の人が出向いて行って競りのような形で売買をしていましたが、現在株式は電子化され、売買も全てコンピューター上で完結するようになっています。

 長文に及んでしまいましたので今回はここまでにします。次回は株式や株価について解説していきます。

 次の記事はこちら。

karmand.hatenablog.com

[1] タカラトミーの限定トミカとか、すかいらーくの食事券とか、内容は多岐にわたります。細かいことを言うと会社法上の「配当」には当たらず適法かどうかという議論も存在しますが、一応セーフということになっているようです。

[2] 株式の市場としては東京証券取引所名古屋証券取引所札幌証券取引所福岡証券取引所の4市場があります。が、実態としてはほぼ東証の一極集中状態です。東証市場の区分としては最も規模の大きい「一部」、その後に続く「二部」、そして新興企業向けの「マザーズ」や「JASDAQ」がありますが、「わかりにくい」と不評で2022年4月に「プライム」「グロース」「スタンダード」の3市場に見直されることとなりました。「東証一部上場」といえば立派な企業の代名詞としてある種のステータスになっている面もありましたが、これからは「プライム市場」がその役割を担うと考えられます。

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