やる気ゼロ証券マンのメモ帳

やる気ゼロの証券マンです。仕事の息抜きに。

金融商品入門(株式編③)

 前回の記事はこちら。

karmand.hatenablog.com

 前回に引き続き株式の基礎について解説していきます。今回は「株価指数」とは何かについて、過去の動向を見ながら解説していきます。また、実際に証券会社に口座を作って取引するときにも役立つ、株式取引の簡単なルールについても解説します。

 

株価指数とは

 企業ごとの株価でなく、もっと大きな視点で株式市場全体の動向が知りたいことがあります。その際によく使われるのが「株価指数」というものです。「昨日は株が下がった」など漠然という場合には「株価指数が」下がったという意味であることが多いです。

 日本において代表的な株価指数は「日経平均株価[1]です。これは日本経済新聞社東証一部上場企業のうち流動性[2]が高い225銘柄[3]の株価を一定の算式に基づいて平均化し、指数として算出しているものです。5秒ごとに計算・更新されています。日本を代表する錚々たる企業の平均株価なので、世界や日本の政治・経済情勢の影響を大きく受けます。そのことから「経済の体温計」と表現されることもあります。これを体感してみるためにも過去の値動きを見てみましょう。

 

a バブル時の日経平均株価

 過去に日経平均株価がつけた最高値(「さいたかね」と読みます。反対は最安値(さいやすね)。)は1989年の12月29日、38,957.44円でした。バブルの絶頂を示す数字であり、年配の証券マンにはこの数字をそらで言える人もいます。

 

b リーマンショック時の日経平均株価

 リーマンショックが起こる1年前の2007年の日経平均は18,000円を超えている場面もありました。それが、2008年には段々12,000円を割れるところまで下がり、9月15日に世界的な規模を誇った証券会社であるリーマン・ブラザーズが倒産した翌日日経平均は600円安と大幅に下落し終値は11,609.72円となりました。

 

c 東日本大震災時の日経平均株価

 2011年3月11日、東日本大震災が起こりましたが、震災の発生時刻が株式市場の終わる14分前だったこともあり、当日終値(「おわりね」と読みます。次項参照。)は前日比179円安の10,254円となりました。そして土日[4]が明けて月、火曜日の2日間で合計1,648円も下落し、日経平均株価は8,605円で取引を終えました。ちなみに月曜日に東京電力の株式はストップ安となり、一日を通して取引が行えない状態となりました。

 

d最近の動向

 2007~2008年のリーマンショックから2020年までの日経平均は下図のような推移をしてきました。2007年末のサブプライム問題から下落し始めて2009年~2012年の民主党政権時代は平均して10,000円を割るなど低迷、2012年からのアベノミクスで上昇に転じてきた、というのがよくされる説明です。リーマン後の最高値は2018年の24,448.07円です。コロナショック前まではリーマン後の最高値に挑戦するような状態でしたが、一時16,000円台まで急激に下落しました。

 

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2007年~2020年の日経平均株価

 さて、株価指数とは様々な種類があり、それぞれ計算方法も異なっているのですが、複数の株式の価格を平均化したものという点は共通です。要するにそれぞれの指数に組み入れられている株式の価格が決まって、それから指数の価格が算出されるというのが筋なのです。しかし実際には指数が先に動き、それに追従するような形で個別の株式が売られたり買われたりすることが往々にしてあります。天下り的ではありますが、つまり株価指数の値動きというのは個別の株式の売買を行う上でも重要な判断材料の一つとなる、ということです。不思議なようですが現実に起きている現象です。あまり深く考えずに「そうなんだ」と思っておけば十分です[5]

 

⑦株式の取引について

 株式市場は午前9:00~11:30、午後0:30~3:30の間オープンしています。このオープンしている時間を「立会(たちあい)」といい、午前の立会を「前場(ぜんば)」、午後の立会を「後場(ごば)」と言います。初めて株式に値段がつくタイミングを「寄付(よりつき)」といい、その日初めてつく株価は「始値(はじめね)」といいます。前場後場にそれぞれ寄付という言葉を使います。前場始値後場始値という表現もありますが、基本的に始値と言ったら前場のものを指します。逆に一日最後の値段を決めるタイミングは「引け」といい、前場の引けを「前引け(ぜんびけ)」、後場の引けを「大引け(おおびけ)」といい、最後につく値段を「終値(おわりね)」といいます。また、11:30~0:30の1時間を「場間(ばかん)」と言い、証券会社の人たちはこの1時間の間に昼食を食べます。場間を過ぎても戻ってこないと当然怒鳴られます。これらの時間外に株式の取引は行われず、値段も付きません。なのでサラリーマン投資家はよく会社のトイレで投資しているようです。

 以下の図は「板」と呼ばれる株価と注文数量の一覧表です。板の真ん中の数字が株価、左側が売指値注文の数量、右側は買指値注文の数量を示しています。板での価格のことを「気配(けはい)」と呼びます。最も安い売注文の気配は買い手にとって最もありがたい売注文ですから、「最良売気配」といいます。逆に売り手からすれば高い値段で買い取ってもらいたいわけですから、最も高い買気配を「最良買気配」といいます。

 最良売気配1,735円のところを見ると売指値が100株(0.1×1000)入っていることが分かります。1,729円には400株の買指値が入っていますが、この値段は最良買気配ではないので、ここまで値段が下がってこないとこの人たちはいつまで経っても買えません。要するに有利な値段に注文を置けば置くほど成約確率は下がり、その分お預けを食らうことになります。なお、発注した注文が成約することを「約定(やくじょう)」と言います。買いたい値段・売りたい値段をあらかじめ指定して発注することを「指値(さしね)注文」と言います。以下の注文は全て指値注文ということです。

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一方でいくらでも良いからすぐに買いたいという時は「成行(なりゆき)」という注文を使います。上の板状況で200株の買いの成行注文を発注すると即座に1,735円で100株約定し、もう100株は1,736円で約定します。1,735円には100株しか売注文がないため、「いくらでも良いから買いたい」というならば最良売気配よりも高い値段を払わざるを得ないということです。つまり、需要の高い株式の値段は上がり、需要の低い(=みんながさっさと手放したい)株式の値段は下がるという市場の原理が実に分かりやすい形で表れているわけです。

 単位として(千)と記載されているので、板には100株単位の注文が載っているわけですが、実は株式は後に述べる例外(ETF等)を除いて1株ずつ買えるわけではありません。原則として100株をまとまった1単位としてみなし、この単位で売買されます。「株主はその持ち分に応じて会社に対して意見をぶつける権限を持」つと書きましたが、厳密には100株ごとに1つ議決権が与えられます。要するに先ほどの銘柄の例で言えば1株1,735円×100株、つまり1単位購入するのに約17万円が必要となってきます。この金額は銘柄によってかなり違ってきますが、ファーストリテイリングユニクロ)は1株50,000円しており、1株購入するのに500万円近く必要です。

 余談ですが、ファストリ日経平均株価にも採用されていますが、他の銘柄と比べて1株の値段が高いことから日経平均株価の変動に対する寄与度が相対的に高くなります。こういった株のことを「値嵩株(ねがさかぶ)」と言い、「また服屋のせいで日経が下がったよ」などしばしば否定的なニュアンスでも使われます。ソフトバンクGなども値嵩株の一つです。

 

 次回は株価の変動リスクという、少しだけ発展的な話題に触れて株式の説明を終えます。

 次の記事はこちら。

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[1] 他に有名なのは東証一部上場企業を対象としたTOPIXアメリカの代表的な株価指数である指数ダウ平均株価、S&P500などがあります。いずれの株価指数も強い相関関係があります。

[2]流動性」とは先の記事でも触れた通り、どれだけ「他のものと交換しやすいか」ということを表す指標です。たとえば不動産などは現金化しにくいので株式に比べると流動性が低いです。現金はあらゆるものと交換できますから最強の流動性を持っています。「株式の流動性」といった場合は株式の換金しやすさ、つまり売りたいときに売れる、買いたいときに買えるという状態にあるかどうか、ということを指すのでここでは単に「取引の活発さ」と読み替えても良いでしょう。わらしべ長者は徐々に物の流動性を高めていく物語とも言えます。

[3] A社株、B社株などの種類を「銘柄」と表現します。

[4] 土日は取引がありません。

[5]日経平均株価指数先物」というデリバティブ商品があります。詳しくは省略しますが、重要なのはこの市場で「日経平均株価の値そのもの」に着目した取引がされているということです。株価指数は複数銘柄のバスケットなので当然動きは緩慢ですが、先物は単一の商品なので値動きのスピードは前者に比べて早いです。したがって日経平均株価先物市場で最初に日経の値が決定され、その後先物市場に合わせる形で日経平均株価が変動します。つまり、個々の株式の価格が決まるより先に株価指数が決まるのです。