やる気ゼロ証券マンのメモ帳

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金融商品入門(債券編①)

 とっつきにくい金融に関して、新聞記事を読む上で必要な知識を身につけられるように書き始めた記事です。今回は債券について解説していきます。項目番号については過去記事である株式編からの通番で付番していきますが、本記事は債権編の第1回目となりますので、番号が(3)から始まることをご承知ください。

 株式編の記事はこちらです。是非、併せてご覧ください。

金融商品入門(株式編①) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

金融商品入門(株式編②) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

金融商品入門(株式編③) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

金融商品入門(株式編④) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

 

(3) 債券とは

 債券(ボンド)は株式と比べると若干聞きなじみが薄いかと思います。債券とは国や地方公共団体、企業が発行する借用証書のことで、借金に分類されます。企業が発行するものを「社債」、国が発行するものを「国債」と呼びます。深く立ち入るととても難しい分野ですので、新聞記事を読み解いていく上では簡単な概要だけ理解できれば十分です。本記事のゴールは債券と金利の関係について理解することです。まずは社債、そして国債と順を追って特徴を見ていきましょう。

 

①企業から見た債券(社債

 株式のところでも説明したとおり、企業には返さなくて良い資金である株式と、返さなければならない資金である銀行借入れという2種類の資金調達手段があります。誤解を恐れず言えば丁度これらの中間のような性質を持ったものが社債です。社債の資金調達スキームは不特定多数の投資家から少しずつ資金を借入れるというものです。銀行1社からまとまったお金を借入れるという手法とはこの点で大きく異なっています。一方で社債はあくまで負債ですから、決められた日(「満期」といいます)に決められた利息(「クーポン」といいます)を支払い、満期日には元本をきっちり返済(「償還」といいます)する必要があり、その点は銀行からの借入れと同様です。

 社債は所詮借金ですから、「会社を切り売りしたもの」という株式に備わっていた重要な性質はありません。したがって投資家に対して会社は債務を負うだけで、経営に口を出されたり、配当を行ったりするといった負担はありません。

 

②投資家から見た債券(社債

 社債は一般的に銀行に預けておくよりも良い利息(クーポン)をもらえるため、投資家からするとそれなりに良い投資先ということになります。一方で銀行預金のように銀行が倒産したとしても「1,000万円までは保証されます」といったバッファーは用意されていないことが普通ですから、社債を発行していた企業が倒産してしまったりすると踏み倒されてしまうリスクもあります。これは会社の信用力(クレジット)に係るリスクであるため、「クレジット・リスク」と言います。一般にクレジット・リスクが高い、つまり信用力のない企業、財務が危なっかしい企業ほど借金を焦げ付かせる危険性が高いため、利率は高くなります。一方で盤石な経営を行い、信用力が高い企業の社債であればクレジット・リスクが低下し、踏み倒される危険性が低下する代わりに利率も下がります。

 信用力を点数として表現したものがあり、これを「格付」と言います。格付を専門に行っている会社[1]が企業の財務状況や企業の経営戦略を総合的に判断し、「AAA(トリプル・エー)」から「D」までの数段階[2]に分けて評価を下します。また、最高ランクのAAAの1つ下のAAから最低のDの1つ上であるCCCまでの段階には+、±なし、-の3段階[3]があり、それぞれ上中下位を示します。BBB以上の債権は相対的に元本が返ってくる確率が高いため、「投資適格債」と呼ばれます。一方でBB以下は貸し倒れリスクが高いため「ジャンク(ガラクタ)債」と呼ばれます。リスクが高いということは即ち利率が高いということですから「ハイイールド(高利回り)債」という別名もあり、証券会社は金色の文字で「ハイイールド債」と書いたいかにも高級そうなパンフレットを使って売りつけたりしています。

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格付のイメージ。()内はムーディーズの使う格付。

 債券は余程のことがなければ満期まで待っていれば元本が返ってきますが、途中で換金したくなった場合は売却することもできます。こうした中古の債券は証券会社が買い取っており、「既発債(既に発行されている、つまり新規発行でない債券。新品の債権は「新発債」。)」として販売されています。2016年当時はソフトバンクの既発債が2%と高利回りの割に格付も良く、人気商品でした。新品の債券は孫会長と仲良しの某証券会社Xがごっそり持って行ってしまうため、債券部門が強かった某証券会社Yもソフトバンク債の新発債を取ることはなかなかできず、既発債ばかり売っていました。

 

国債

 よく「日本の借金は〇兆円」という文脈の中でネガティブに使われる国債ですが、中身としては社債と一緒です。いつ満期で、いくらのクーポンでどうですかと国が公募する形で発行し、証券会社や銀行が入札して引き受けます。満期までの期間の長さによって中期(3~5年)、長期(10年)、超長期(20年)などの種類がありますが、最もポピュラーなものは長期国債です。また、個人投資家が投資しやすいように1口10,000円から購入できる「個人向け国債」という商品もあります。国家が存続している限り元本が保証される上クーポンが0.05%なので、最大1,000万円までしか保護されず、また利率も0.001%程度の定期預金に比べると遥かに優秀です。

 

 次回は少し発展的な話題として、債券価格と金利の関係について解説します。次回で債権の解説は終了して、その後は投資信託の解説に入っていきます。

 

[1] 有名どころではS&P、フィッチ、ムーディーズがあります。これらはいずれも海外の企業ですが、日本にも格付を行っている会社はあります。各社とも固有の記号を用いて格付けをしていますが、概ね仕組みは一緒です。

[2] 企業に限らず国家にも格付がされています。日本国の格付は各社異なるものの大体A+ないしAです。一般企業で日本政府よりも良い格付けを持つ企業もあります。一方でアメリカやシンガポールはAAAの格付を有しています。

[3] AAAやDは最高・最低を示すランクなので、+や-という接頭辞はつきません。