やる気ゼロ証券マンのメモ帳

やる気ゼロの証券マンです。仕事の息抜きに。

金融商品入門(債券編①)

 とっつきにくい金融に関して、新聞記事を読む上で必要な知識を身につけられるように書き始めた記事です。今回は債券について解説していきます。項目番号については過去記事である株式編からの通番で付番していきますが、本記事は債権編の第1回目となりますので、番号が(3)から始まることをご承知ください。

 株式編の記事はこちらです。是非、併せてご覧ください。

金融商品入門(株式編①) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

金融商品入門(株式編②) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

金融商品入門(株式編③) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

金融商品入門(株式編④) - やる気ゼロ証券マンのメモ帳

 

(3) 債券とは

 債券(ボンド)は株式と比べると若干聞きなじみが薄いかと思います。債券とは国や地方公共団体、企業が発行する借用証書のことで、借金に分類されます。企業が発行するものを「社債」、国が発行するものを「国債」と呼びます。深く立ち入るととても難しい分野ですので、新聞記事を読み解いていく上では簡単な概要だけ理解できれば十分です。本記事のゴールは債券と金利の関係について理解することです。まずは社債、そして国債と順を追って特徴を見ていきましょう。

 

①企業から見た債券(社債

 株式のところでも説明したとおり、企業には返さなくて良い資金である株式と、返さなければならない資金である銀行借入れという2種類の資金調達手段があります。誤解を恐れず言えば丁度これらの中間のような性質を持ったものが社債です。社債の資金調達スキームは不特定多数の投資家から少しずつ資金を借入れるというものです。銀行1社からまとまったお金を借入れるという手法とはこの点で大きく異なっています。一方で社債はあくまで負債ですから、決められた日(「満期」といいます)に決められた利息(「クーポン」といいます)を支払い、満期日には元本をきっちり返済(「償還」といいます)する必要があり、その点は銀行からの借入れと同様です。

 社債は所詮借金ですから、「会社を切り売りしたもの」という株式に備わっていた重要な性質はありません。したがって投資家に対して会社は債務を負うだけで、経営に口を出されたり、配当を行ったりするといった負担はありません。

 

②投資家から見た債券(社債

 社債は一般的に銀行に預けておくよりも良い利息(クーポン)をもらえるため、投資家からするとそれなりに良い投資先ということになります。一方で銀行預金のように銀行が倒産したとしても「1,000万円までは保証されます」といったバッファーは用意されていないことが普通ですから、社債を発行していた企業が倒産してしまったりすると踏み倒されてしまうリスクもあります。これは会社の信用力(クレジット)に係るリスクであるため、「クレジット・リスク」と言います。一般にクレジット・リスクが高い、つまり信用力のない企業、財務が危なっかしい企業ほど借金を焦げ付かせる危険性が高いため、利率は高くなります。一方で盤石な経営を行い、信用力が高い企業の社債であればクレジット・リスクが低下し、踏み倒される危険性が低下する代わりに利率も下がります。

 信用力を点数として表現したものがあり、これを「格付」と言います。格付を専門に行っている会社[1]が企業の財務状況や企業の経営戦略を総合的に判断し、「AAA(トリプル・エー)」から「D」までの数段階[2]に分けて評価を下します。また、最高ランクのAAAの1つ下のAAから最低のDの1つ上であるCCCまでの段階には+、±なし、-の3段階[3]があり、それぞれ上中下位を示します。BBB以上の債権は相対的に元本が返ってくる確率が高いため、「投資適格債」と呼ばれます。一方でBB以下は貸し倒れリスクが高いため「ジャンク(ガラクタ)債」と呼ばれます。リスクが高いということは即ち利率が高いということですから「ハイイールド(高利回り)債」という別名もあり、証券会社は金色の文字で「ハイイールド債」と書いたいかにも高級そうなパンフレットを使って売りつけたりしています。

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格付のイメージ。()内はムーディーズの使う格付。

 債券は余程のことがなければ満期まで待っていれば元本が返ってきますが、途中で換金したくなった場合は売却することもできます。こうした中古の債券は証券会社が買い取っており、「既発債(既に発行されている、つまり新規発行でない債券。新品の債権は「新発債」。)」として販売されています。2016年当時はソフトバンクの既発債が2%と高利回りの割に格付も良く、人気商品でした。新品の債券は孫会長と仲良しの某証券会社Xがごっそり持って行ってしまうため、債券部門が強かった某証券会社Yもソフトバンク債の新発債を取ることはなかなかできず、既発債ばかり売っていました。

 

国債

 よく「日本の借金は〇兆円」という文脈の中でネガティブに使われる国債ですが、中身としては社債と一緒です。いつ満期で、いくらのクーポンでどうですかと国が公募する形で発行し、証券会社や銀行が入札して引き受けます。満期までの期間の長さによって中期(3~5年)、長期(10年)、超長期(20年)などの種類がありますが、最もポピュラーなものは長期国債です。また、個人投資家が投資しやすいように1口10,000円から購入できる「個人向け国債」という商品もあります。国家が存続している限り元本が保証される上クーポンが0.05%なので、最大1,000万円までしか保護されず、また利率も0.001%程度の定期預金に比べると遥かに優秀です。

 

 次回は少し発展的な話題として、債券価格と金利の関係について解説します。次回で債権の解説は終了して、その後は投資信託の解説に入っていきます。

 

[1] 有名どころではS&P、フィッチ、ムーディーズがあります。これらはいずれも海外の企業ですが、日本にも格付を行っている会社はあります。各社とも固有の記号を用いて格付けをしていますが、概ね仕組みは一緒です。

[2] 企業に限らず国家にも格付がされています。日本国の格付は各社異なるものの大体A+ないしAです。一般企業で日本政府よりも良い格付けを持つ企業もあります。一方でアメリカやシンガポールはAAAの格付を有しています。

[3] AAAやDは最高・最低を示すランクなので、+や-という接頭辞はつきません。

金融商品入門(株式編④)

前回の記事はこちら。

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今日は株価の変動について見ていきます。

 

⑧株式の価格変動リスク

 ①のところで触れたとおり、株式には価格変動が激しい、という特徴があります。下図は2019年9月の日経平均株価の価格推移を示すものです。大体前日比[1]プラスマイナス2ケタ円の値幅変動となっていて、前日と比べて最も大きく動いているのは9/27の-169円(前日比-0.76%)ですが、実はこれはかなり落ち着いた相場状況と言えます。例えるならばべた凪のような状態です。

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2019年9月の日経平均

 

更に下図を見てください。コロナウイルスが猛威をふるい、いよいよ世界的に雲行きが怪しくなってきた3月の相場です。

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2020年3月の日経平均

一日で数100円~1,000円単位と大きく動いていることがわかります。これは例えるならば大時化の状況です。3/13日は前日比-6.47%とかなり下落していることがわかります。

 また、一見してわかる通り相場の荒れ具合というのは基本的に一日単位で終わるようなものではなく、長期間にわたって継続することがほとんどです。こうした相場の変動しやすさ・荒れ具合を示す指標のことを「ボラティリティ」と呼びます。「ボラティリティが高い相場」と言えば2020年のような相場状況を、「ボラティリティが低い相場」と言えば2019年のような相場状況をそれぞれ示しています。ボラティリティは株式に限らず全ての金融商品に用いられる重要な概念です。

 金融商品には「リスク」があるとよく表現されますが、金融商品の世界における「リスク」とはボラティリティのことを指します。すなわち値段が下がることが「リスク」なのではなく、値段が上に行こうが下に行こうが、どちらにせよ将来の価格を見通せないという状況のことを「リスク」というのです。直観的にもわかるとおり、ボラティリティが高いということはそれだけ価格の振れ幅が大きいことを意味するため、利益率が高くなる、低くなるというそれぞれの可能性が高くなります。これを「ハイリスク・ハイリターン」と言います。ボラティリティについては補論で詳しく説明するつもりですので、もしあまりピンと来なかった方はぜひそちらを読んでからまた戻ってきてみてください。

 

⑨まとめ

 以上見てきたように株式とは企業にとっては資金調達手段であり、また企業の価値そのものでもあり、投資家にとっては利益をもたらしうる現金同等物です。また、その価格の推移を追うと経済の動向を捉えることも可能です。こうした多様な性格を持ち合わせていることが、株式の理解を妨げる要因となっているのかもしれません。しかしそれぞれの性質は切り離されるべきものではなく、密接不可分な関係にあるということがおわかり頂けたのではないかと思います。

 株式編はここまでとなります。次回からは債権について解説していきます。

 

[1] 「前日比」というときは通常前日の終値と当日の終値同士を比較します。株価を見るときに代表的な値段として選ばれるのはる終値であることがほとんどです。

金融商品入門(株式編③)

 前回の記事はこちら。

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 前回に引き続き株式の基礎について解説していきます。今回は「株価指数」とは何かについて、過去の動向を見ながら解説していきます。また、実際に証券会社に口座を作って取引するときにも役立つ、株式取引の簡単なルールについても解説します。

 

株価指数とは

 企業ごとの株価でなく、もっと大きな視点で株式市場全体の動向が知りたいことがあります。その際によく使われるのが「株価指数」というものです。「昨日は株が下がった」など漠然という場合には「株価指数が」下がったという意味であることが多いです。

 日本において代表的な株価指数は「日経平均株価[1]です。これは日本経済新聞社東証一部上場企業のうち流動性[2]が高い225銘柄[3]の株価を一定の算式に基づいて平均化し、指数として算出しているものです。5秒ごとに計算・更新されています。日本を代表する錚々たる企業の平均株価なので、世界や日本の政治・経済情勢の影響を大きく受けます。そのことから「経済の体温計」と表現されることもあります。これを体感してみるためにも過去の値動きを見てみましょう。

 

a バブル時の日経平均株価

 過去に日経平均株価がつけた最高値(「さいたかね」と読みます。反対は最安値(さいやすね)。)は1989年の12月29日、38,957.44円でした。バブルの絶頂を示す数字であり、年配の証券マンにはこの数字をそらで言える人もいます。

 

b リーマンショック時の日経平均株価

 リーマンショックが起こる1年前の2007年の日経平均は18,000円を超えている場面もありました。それが、2008年には段々12,000円を割れるところまで下がり、9月15日に世界的な規模を誇った証券会社であるリーマン・ブラザーズが倒産した翌日日経平均は600円安と大幅に下落し終値は11,609.72円となりました。

 

c 東日本大震災時の日経平均株価

 2011年3月11日、東日本大震災が起こりましたが、震災の発生時刻が株式市場の終わる14分前だったこともあり、当日終値(「おわりね」と読みます。次項参照。)は前日比179円安の10,254円となりました。そして土日[4]が明けて月、火曜日の2日間で合計1,648円も下落し、日経平均株価は8,605円で取引を終えました。ちなみに月曜日に東京電力の株式はストップ安となり、一日を通して取引が行えない状態となりました。

 

d最近の動向

 2007~2008年のリーマンショックから2020年までの日経平均は下図のような推移をしてきました。2007年末のサブプライム問題から下落し始めて2009年~2012年の民主党政権時代は平均して10,000円を割るなど低迷、2012年からのアベノミクスで上昇に転じてきた、というのがよくされる説明です。リーマン後の最高値は2018年の24,448.07円です。コロナショック前まではリーマン後の最高値に挑戦するような状態でしたが、一時16,000円台まで急激に下落しました。

 

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2007年~2020年の日経平均株価

 さて、株価指数とは様々な種類があり、それぞれ計算方法も異なっているのですが、複数の株式の価格を平均化したものという点は共通です。要するにそれぞれの指数に組み入れられている株式の価格が決まって、それから指数の価格が算出されるというのが筋なのです。しかし実際には指数が先に動き、それに追従するような形で個別の株式が売られたり買われたりすることが往々にしてあります。天下り的ではありますが、つまり株価指数の値動きというのは個別の株式の売買を行う上でも重要な判断材料の一つとなる、ということです。不思議なようですが現実に起きている現象です。あまり深く考えずに「そうなんだ」と思っておけば十分です[5]

 

⑦株式の取引について

 株式市場は午前9:00~11:30、午後0:30~3:30の間オープンしています。このオープンしている時間を「立会(たちあい)」といい、午前の立会を「前場(ぜんば)」、午後の立会を「後場(ごば)」と言います。初めて株式に値段がつくタイミングを「寄付(よりつき)」といい、その日初めてつく株価は「始値(はじめね)」といいます。前場後場にそれぞれ寄付という言葉を使います。前場始値後場始値という表現もありますが、基本的に始値と言ったら前場のものを指します。逆に一日最後の値段を決めるタイミングは「引け」といい、前場の引けを「前引け(ぜんびけ)」、後場の引けを「大引け(おおびけ)」といい、最後につく値段を「終値(おわりね)」といいます。また、11:30~0:30の1時間を「場間(ばかん)」と言い、証券会社の人たちはこの1時間の間に昼食を食べます。場間を過ぎても戻ってこないと当然怒鳴られます。これらの時間外に株式の取引は行われず、値段も付きません。なのでサラリーマン投資家はよく会社のトイレで投資しているようです。

 以下の図は「板」と呼ばれる株価と注文数量の一覧表です。板の真ん中の数字が株価、左側が売指値注文の数量、右側は買指値注文の数量を示しています。板での価格のことを「気配(けはい)」と呼びます。最も安い売注文の気配は買い手にとって最もありがたい売注文ですから、「最良売気配」といいます。逆に売り手からすれば高い値段で買い取ってもらいたいわけですから、最も高い買気配を「最良買気配」といいます。

 最良売気配1,735円のところを見ると売指値が100株(0.1×1000)入っていることが分かります。1,729円には400株の買指値が入っていますが、この値段は最良買気配ではないので、ここまで値段が下がってこないとこの人たちはいつまで経っても買えません。要するに有利な値段に注文を置けば置くほど成約確率は下がり、その分お預けを食らうことになります。なお、発注した注文が成約することを「約定(やくじょう)」と言います。買いたい値段・売りたい値段をあらかじめ指定して発注することを「指値(さしね)注文」と言います。以下の注文は全て指値注文ということです。

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一方でいくらでも良いからすぐに買いたいという時は「成行(なりゆき)」という注文を使います。上の板状況で200株の買いの成行注文を発注すると即座に1,735円で100株約定し、もう100株は1,736円で約定します。1,735円には100株しか売注文がないため、「いくらでも良いから買いたい」というならば最良売気配よりも高い値段を払わざるを得ないということです。つまり、需要の高い株式の値段は上がり、需要の低い(=みんながさっさと手放したい)株式の値段は下がるという市場の原理が実に分かりやすい形で表れているわけです。

 単位として(千)と記載されているので、板には100株単位の注文が載っているわけですが、実は株式は後に述べる例外(ETF等)を除いて1株ずつ買えるわけではありません。原則として100株をまとまった1単位としてみなし、この単位で売買されます。「株主はその持ち分に応じて会社に対して意見をぶつける権限を持」つと書きましたが、厳密には100株ごとに1つ議決権が与えられます。要するに先ほどの銘柄の例で言えば1株1,735円×100株、つまり1単位購入するのに約17万円が必要となってきます。この金額は銘柄によってかなり違ってきますが、ファーストリテイリングユニクロ)は1株50,000円しており、1株購入するのに500万円近く必要です。

 余談ですが、ファストリ日経平均株価にも採用されていますが、他の銘柄と比べて1株の値段が高いことから日経平均株価の変動に対する寄与度が相対的に高くなります。こういった株のことを「値嵩株(ねがさかぶ)」と言い、「また服屋のせいで日経が下がったよ」などしばしば否定的なニュアンスでも使われます。ソフトバンクGなども値嵩株の一つです。

 

 次回は株価の変動リスクという、少しだけ発展的な話題に触れて株式の説明を終えます。

 次の記事はこちら。

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[1] 他に有名なのは東証一部上場企業を対象としたTOPIXアメリカの代表的な株価指数である指数ダウ平均株価、S&P500などがあります。いずれの株価指数も強い相関関係があります。

[2]流動性」とは先の記事でも触れた通り、どれだけ「他のものと交換しやすいか」ということを表す指標です。たとえば不動産などは現金化しにくいので株式に比べると流動性が低いです。現金はあらゆるものと交換できますから最強の流動性を持っています。「株式の流動性」といった場合は株式の換金しやすさ、つまり売りたいときに売れる、買いたいときに買えるという状態にあるかどうか、ということを指すのでここでは単に「取引の活発さ」と読み替えても良いでしょう。わらしべ長者は徐々に物の流動性を高めていく物語とも言えます。

[3] A社株、B社株などの種類を「銘柄」と表現します。

[4] 土日は取引がありません。

[5]日経平均株価指数先物」というデリバティブ商品があります。詳しくは省略しますが、重要なのはこの市場で「日経平均株価の値そのもの」に着目した取引がされているということです。株価指数は複数銘柄のバスケットなので当然動きは緩慢ですが、先物は単一の商品なので値動きのスピードは前者に比べて早いです。したがって日経平均株価先物市場で最初に日経の値が決定され、その後先物市場に合わせる形で日経平均株価が変動します。つまり、個々の株式の価格が決まるより先に株価指数が決まるのです。

金融商品入門(株式編②)

 前回の記事はこちら。

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 昨日の記事に引き続き、今日も株式の基礎知識について説明していきます。

 

③株式の特徴

 昨日も触れましたが、一般に株主はその持ち分に応じて会社の経営に関して株主総会で口を出す権限を与えられます。株主総会とは国家で例えるなら国会のような機関です。とはいえカネさえあれば誰でも株主になれるという仕組み上、全株主が会社の舵を取っていく能力を持つという状況はまず有りえませんし、全員が好き勝手に経営できるのならば船頭を多くして船山に登るというのが明白です。よって日々の経営は会社の行政組織、内閣たる取締役会に任せておき、重要な決定には国会である株主総会を通じて株主の声を反映させるというのが株式会社のルールです。この仕組みを「所有と経営の分離」と言います。株主は出資した金額(=株式を取得するときに払い込んだ金額)以上に会社や会社の債権者から金を請求されることはなく、最悪出資先が倒産したとしても払い込んだ金額が0円になってしまう[1]だけで済みます。これを「有限責任」といいます。小規模な企業の場合は出資した額を超えていくらでも金を請求されうる「無限責任」という仕組みを取る企業形態も選択でき、①で触れた持分会社の一部は無限責任です。

 

④株式と時価総額

 先ほど「株主はその持ち分に応じて会社の経営に関して株主総会で口を出す権限を与えられ」ると説明しました。つまり株式を多く持っていれば持っているほど、多数決で議決を行う株主総会において主張を通しやすくできるということです。極端な例で言えば、ある会社の株式を半数(=51%)以上取得すると、その会社の決定権を乗っ取ることができます。会社を完全に乗っ取りたければ100%の株式を取得してしまえばいいわけです。

 以上の観点から、企業の株を全て買い集めるということはすなわち「会社を丸ごと買う」行為であると換言できます。したがって、ある企業が発行する全ての株式の合計値段はまさしく「会社の値段」であり、これを「時価総額」と呼びます。改めて説明するまでもありませんが時価総額は株価×発行している株式の総数で計算できるため、絶えず変動しています。これが「時価」という言葉の意味するところです。

 日本で最大の企業であるトヨタ時価総額は約20兆円、東証一部上場企業の時価総額合計は600兆円です。2021年現在世界最大の企業はアップルでおよそ200兆円、次点はサウジアラムコでおよそ180兆円、その次はマイクロソフト、アマゾンと米国企業が続き、トヨタは大体40番目くらいに来ます。30~40年前には上位10位に日本企業がずらりと並んでいたのですが、現在はアメリカ・中国の企業で占められています。ちなみに日本のGDP(日本国内で1年間に作られる全てのモノ・サービスの値段の合計)は約500兆円です。こうした数値感覚も併せて持っておくと、大きな数字を聞いた時のイメージが持ちやすく、便利です。

 

⑤株価とは

 先ほどからしれっと「株価」という単語を使っていますが、これは企業の株式1株の値段です。株式は取引所(以下単に「東証」といいます。)において日々競りの仕組みで売買がされていますので、買いたい人がたくさんいれば株価は上がり、売りたい人がたくさんいれば株価は下がっていきます。どういった要因で上がる・下がるのかという点については無数の説明が可能ですが、一般に「いい決算が出た」とか、「社長が薬に手を出したのがバレて逮捕された」とか、企業に関するポジティブ・ネガティブなニュースなどに反応します。また、決算などの確定的な数字が無くとも「A社がコロナウイルスに有効とされる薬の治験に着手した」といったな噂レベルのニュースが出ただけでも株価が上がっていくことも良くあります。

 また、株式とは会社を切り売りしたものに過ぎないことから、当然発行する会社が無くなれば価値は0になります。よって天災や戦争、テロ、ちょっと前の話題で言えばアメリカと中国の貿易戦争といったリスクが発現した際には投資家たちがこぞって現金化したがり、個別企業の事業とは全く関係なくあらゆる企業の株式が軒並み売られることもあります。こうしたリスクのことを「地政学的リスク」といい、これまた株価が下がる原因の一つです。株価が動いているのにハッキリとした原因がわからないようなとき、困った新聞記者が株価の動きを説明するのにも便利な言葉です。

 株価が一日で急激に上がったり下がったりすると投資家にとっては大きな痛手となることがあります(何で上がっても困るのか、ということは深く考えず、今ここでは「そんなものか」ととりあえず納得しておいてください。下がったら困る人もいる裏で、上がったら困る人もいるんだな、くらいのイメージを持っておければ大丈夫です。)。そのため東証では一日に動ける株価の上限・下限をそれぞれ設けており、これをそれぞれストップ高・ストップ安と言います。ある会社の株価がストップ高になっているのなら余程ポジティブなニュースが出ていることが多く、ストップ安ならばその逆となります。例えば2016年末に東芝粉飾決算をしていたことが明るみに出たときはストップ安になりました。さて、この他にも「株価」として言及されるものに「日経平均株価」やアメリカの「ダウ平均株価」などの「株価指数」があります。

 株価指数については説明が長くなりますので、また別の記事で解説することにします。

 次の記事はこちら。

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[1] 倒産する企業の株価は0円になります。

金融商品入門(株式編①)

1.はじめに

 新聞やテレビにおいて耳にすることが多い金融関係のニュースですが、難解そうな用語や概念が多用されるため、とっつきにくいイメージを持たれがちです。しかし順を追って学んでいけば決して難しいものではありません。

 基本的に金融の世界は「金融商品」と呼ばれる資産のやりとりによって成り立っています。したがって、金融の世界を理解するためには、理解のしやすい金融商品から学んでいくと効率的です。

 しかしひとくちに「金融商品」と言っても非常に多様な種類が存在します。中でも代表的な物は株式や債券、投資信託と言ったいわゆる「現物」の商品です。現物の対義語は「金融派生商品(=デリバティブ)」で、先物やオプションなどがあります。

 以後何回かに分けて、全ての金融商品を理解する上で重要となる現物商品、つまり株式と債券、そしてNISAや確定拠出年金によって身近なモノになりつつある投資信託について解説します。最終的なゴールは経済新聞のマーケット欄を読んで「こういうことかな?」とふわっと理解できるようになることです。

 なお、論理的厳密性に欠ける表現を多用していますが、直観的理解を優先するために、敢えてそういった表現に頼っていることをあらかじめご了承ください。また、しっかりとしたファクトチェックは行っていませんので、各自の責任の元正しい情報ソースに当たることを強く推奨します。

 

(1) 株式とは

 どれだけ金融商品に馴染みがなくともこれだけは知っている、聞いたことがあるという人が多いと思います。株式は最もポピュラーな金融商品の一つです。しかし株式が一体何かということをスラスラ説明できる人はそう多くないのではないでしょうか。株式と聞くと金持ちの娯楽、儲かるもの、損をして借金を抱えるもの、など様々なイメージが浮かぶと思います。株式は他の金融商品を学ぶ上でも重要な基礎をたくさん含んでいますので、順を追って理解していきましょう。株式は「誰の視点から見るか」によっても見え方が異なります。今回は「会社から見た株式」と「株主から見た株式」という切り口で解説していきます。

 

 ①会社から見た株式

 会社が事業を行っていく上では必ず運転資金が必要になります。個人商店のように小さな会社であれば、事業主自身の出資や家族、友人などから資金を集めて事業をスタートすることができます。しかし、規模の大きい会社ではそうはいきません。不特定多数の人々から多くの資金を調達する必要があります。そこで、お金を調達する手段が必要になります。最も簡単に思いつくものは銀行からの借り入れですが、借り入れた資金は必ず返済しなければならない、信用がなければ思うような金額を確保できないといった困難が伴います。そこで使われるのが株式です。1株いくらという金額(=株価)と発行する数量(=発行数量)を決めて、不特定多数の投資家(=出資者)を募って株式を買取ってもらいます。会社は投資家に株式を渡す代わりに代金を受け取り、その分の資金を調達できるのです。株式を発行して資金調達する形態の会社組織のことを「株式会社」と言います。ちなみに対義語は「持分会社」といい、乱暴に言えば小規模で身銭を切ってやる会社、というイメージです。

 「有限会社」というものも聞いたことがあるかと思いますが、現行法では「株式会社」として取り扱われています。かつては株式会社に比べて安価な資本金で作れることから意味のあった組織形態ですが、会社法の改正によって現在は資本金1円でも会社が作れるために実益を失いました。現在、新たに有限会社を作ることはできません。

 会社にお金を出してくれた投資家は株式の持ち主ですから「株主」と呼ばれ、会社に対して一定の発言権を持ちます。が、会社のかじ取り(=経営)を直接行うことはできません。つまり株式による資金調達とは、会社からすれば「金さえ出してくれるなら誰でも良い」という仕組みなのです。また、株式はあくまで「売却」しているわけですから、銀行からの借り入れとは異なって返済の必要はありません。よって株式の発行は会社が安定的な資金を確保するために有効な手段と言えます。

 もちろん出資者に何の見返りもないということはありません。会社は事業で儲けたお金の中から、一定の割合で株主に対して還元します。これを「配当」と呼び、通常は株主の証券口座に現金で振り込まれます。株価が1,000円の時に1株あたり20円の配当を行う会社であれば「配当利回りが2%」、という表現をします。一般に銀行利率より高い数字となり、株式を購入し保有する一つのインセンティブにもなるものですが、後に述べるように株式は銀行預金と異なり価格変動が激しく、株式自体の価値が購入した時から大幅に下落しうることには留意が必要です。配当に加え、自社製品や商品券、クオカードなどを株主に交付する「株主優待[1]」といった制度を活用する会社も多くあります。

 

 ②株主から見た株式

 ここで重要なことが一つあります。会社から見て「代金を返済しなくて良い」ということは、裏返してみれば株式を購入した投資家は会社に対して「株式を返すからお金を返してくれ」とは言えないということです。しかし、それでは投資家があまりに不利です。どうしても手元の株式を手放して現金が欲しくなることもあるでしょう。会社が株主からの買取り請求に応じない以上、他にその株式を買い取ってくれる人を見つけて買取ってもらわなければなりません。ですがこうして自力で買ってくれる人を探すことはあまりに困難です。最初に出資してくれたような人はその会社をよく理解して納得した上でお金を払っているはずですが、世の中によくわからない会社の株式とお金を交換してやっても良いという人は多くないはずです。一般に高額な買い物である株式の売買ですから、買い手が見つかったとしても足元を見られて安く買い叩かれるであろうことは容易に想像できます。このように現金と交換することが難しい、という状態を「流動性が低い」と表現します。

 そこで、一定の要件を満たした会社についてはいわゆる「株式市場」である「取引所」に株式を上場[2]できるという仕組みが用意されました。取引所には絶えず株式を売りたい人・買いたい人が集まっているため、投資家たちはお互い相手の顔も知らないまま株式の値段だけを参考にして売買をすることができます。要するに会社に出資してみたい人が、将来購入した株式を現金化したくなったときのことを心配することなく、気軽に出資できる環境が備わったということです。換金がしやすくなったということは「流動性が高い」状態になったとも言えるため、取引所の役割は流動性を提供すること、と表現されることもあります。

 また、一度株式が投資家の手に渡れば後は彼らが勝手に取引所を通じて株式のやり取りをしてくれるので、会社も「株を買い取ってくれ」と言われたりする心配もありません。

 しかし、万人が直接取引所にアクセスすることはできません。取引所での取引資格を持った証券会社のみが取引所で株式の売買を行えます。個人などは証券会社に口座を作り、注文を中継ぎして貰うことで株式を購入することができます。

 ちなみにかつては株式に実際の券面(=株券)が存在したため、取引所に証券会社の人が出向いて行って競りのような形で売買をしていましたが、現在株式は電子化され、売買も全てコンピューター上で完結するようになっています。

 長文に及んでしまいましたので今回はここまでにします。次回は株式や株価について解説していきます。

 次の記事はこちら。

karmand.hatenablog.com

[1] タカラトミーの限定トミカとか、すかいらーくの食事券とか、内容は多岐にわたります。細かいことを言うと会社法上の「配当」には当たらず適法かどうかという議論も存在しますが、一応セーフということになっているようです。

[2] 株式の市場としては東京証券取引所名古屋証券取引所札幌証券取引所福岡証券取引所の4市場があります。が、実態としてはほぼ東証の一極集中状態です。東証市場の区分としては最も規模の大きい「一部」、その後に続く「二部」、そして新興企業向けの「マザーズ」や「JASDAQ」がありますが、「わかりにくい」と不評で2022年4月に「プライム」「グロース」「スタンダード」の3市場に見直されることとなりました。「東証一部上場」といえば立派な企業の代名詞としてある種のステータスになっている面もありましたが、これからは「プライム市場」がその役割を担うと考えられます。

市場区分見直しの概要 | 日本取引所グループ

海事代理士の短期独学合格法について(筆記試験編)

※この記事は過去に私がnoteで公開したものを移植したもので、ほぼ同内容です。

note.com

 

要約

(1) 使用する教材は市販のテキスト1冊と、国土交通省のHPで公開されている無料の過去問及びインターネット上の法令検索で充分である。

 

(2) 過去問の中では正誤問題の誤りの選択肢について、何故その肢が誤りであるのかをよく学ぶことが最重要である。また、解き終えた過去問は法令順に並べ替えて、問題集として利用するとよい。

 

(3) 試験までゆっくりと時間を取れず高得点を狙えない場合は、65%の得点(156点以上)を目指すことで合格安全圏内に入る可能性が高いため、一つの目安にすると良い。

 

(4) 試験当日は多めに見積もって各時限の合間に合計4時間程度の勉強をすることが可能である。

 

1.導入

 令和元年の海事代理士試験に合格しました。この資格を受験しようと考えたことのある方はよくご存知かと思いますが、受験者数が年間400名程度とかなり少なく、市販されているテキストも種類が限られている上に質もイマイチ…という特有の対策のしにくさがある資格です。その上覚えなければならない法令の種類は20種類(令和元年より2科目追加となりました。詳細は後述します。)とかなりのボリュームがあり、また船舶法と船舶安全法という重要な2科目がカタカナ交じりの文語体条文と、これまたハードルを上げる一つの要因となっています。

    以下では短期間で本番の筆記試験に太刀打ちできるようになった方法をお伝えしていこうと思います。

 

2.使う教材

 テキストとしては海事代理士試験研究センターが発行・販売している『海事代理士必修テキスト(以下「必修テキスト」といいます)』のみ利用しました。

定番とされている『海事代理士合格マニュアル(以下「マニュアル」といいます)』は利用していません。というのも、マニュアルは過去問集であり、かつ解説等が一切無いというレビューを見たからです。過去問と答案については国土交通省のHP(海事代理士になるには - 国土交通省)において無料で閲覧することができますので、こちらを購入する意義はないかなと考えた次第です。一方で「必修テキスト」もあまり良い評判はなかったのですが、こちらは約2,300円とお手ごろで、中身は頻出条文の羅列ということで、コチラのほうがインプットには向いているなと思いました。

    ただ1点、必修テキストを利用される場合にはご注意いただきたいのですが、最新版(2019/9現在)が平成27年の刊行で内容が一部古いです。特に致命的なのは現在の港則法で「汽艇等」と呼ばれる種類の船舶を「雑種船」と記載している点です。雑種船から汽艇等へ名称変更されたので両者はほぼ同じものと考えてよいのですが、雑種船は未だに引っ掛けの選択肢として盛んに利用されているため、特に注意を要します。また、海商法については2018年5月に120年ぶり(!)の改正(法務省:商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律について)があり、カタカナ文語体条文から口語体の条文になりました。特に文語体の条文に抵抗が無い方はそのまま必修テキストを利用しても良いかもしれませんが、内容自体の改正もありましたのでこちらは最新の情報をe-Gov法令検索あるいは市販の六法で学習されることをオススメします。なお、私は改正のことを試験終了後に知りましたが、特に問題はなく終えることが出来たのでホッとしています。
 海事六法を購入しないとは書きましたが、さすがに必修テキスト収録の条文のみでは厳しいことがありますので、e-Govを利用して適宜法律や施行規則を確認していました。「●●法」や「●●法施行規則」と入力すれば大抵は検索結果の最上部に出てきます。また、先述の過去問も直近5年分のみ利用しました。「必修テキスト」で網羅されていない平成27年、28年、29年及び30年の問題は特に重要と考え、じっくり取り組みました。

 

3.勉強法

 大枠としては以下の流れで学習しました。以下では一つ一つ詳細をお伝えしていきます。なお、私は法律系科目の学習経験は今年が初めてであって、行政書士試験をダブル受験するために憲法民法の対策はほぼしない、という前提条件があります。法学部出身の方などは更に短い期間で合格できるかもしれません。


①必修テキスト素読(インプット)→②必修テキスト暗記テスト(アウトプット)→③過去問取り組み(アウトプット)→④過去問答え合わせ(インプット)→⑤オリジナルの問題集への取り組み(アウトプット)→⑥新範囲への対応(インプット)

 どんな試験においても言えることだと思いますが、正誤判定問題の誤りの選択肢において、どの程度の「質」の誤りを出してくるのかということを、過去問などを解きながら体感していくと良いです。海事代理士試験では例えば「許可」を「認可」と入れ替える、「~することができない」を「~することができる」とするように肯定・否定形を入れ替える、似たような条文の表現を使って一部を入れ替えるなどのパターンが多く見られます。つまり、海事代理士試験は非常に「まとも」な問題が多いです。

 以下、上記の各ステップについてより詳細にご紹介します。

 

(1) 必修テキストの素読

 テキストの条文を順に素読していきました。船舶法と船舶安全法の文語体については、頭の中で現代語に直しながら読んでいくと楽になります。例えば以下のようなフレーズについては、ほぼ自動的にこのように訳してしまっても良いです。

 

「~スルコトヲ得(う)」=「~することができる」、「~スルコトヲ得ス(えず)」=「~することができない」、「能ハサル(あたわざる)」=「~することができない」、「~スヘシ(すべし)」=「しなければならない」、「~スヘカラス(すべからず)」=「~してはならない」、「~セサル(せざる)」=「~していない」、「於テ(おいて)」=「~で、~に」

 


 また、難読の漢字もいくつかありますが、一例として以下はこのように読みます。

 

「其」=「それ、その」、「之」=「これ」、「此」=「この」、「亦」=「また」、「但」=「ただし」、「雖モ」=「いえども」、「若クハ」=「もしくは」、「到著」=「とうちゃく」

 


 例えば「航海スルコト能ハサルニ至リタル時ハ」という文章は口語に直すと「航海することが出来ない(状態に)至ったときは」となり、「外国ニ於テ船舶ヲ取得シタル者ハ其取得地ニ於テ仮船舶国籍証書ヲ請受クルコトヲ得」という文章は「外国で船舶を取得した者はその取得地において仮船舶国籍証書を請求し、受け取ることが出来る」となります。

 

(2) 必修テキストの暗記テスト

 必修テキストは各課目の最終ページに当該科目の簡単な確認テスト(過去問からの出題)がついています。そこをさっと確認して全問正解できなければ改めて素読に戻り、正解できたら次の科目へ、とさっさと進めてしまいました。また、全科目の素読が終了した段階で暗記ペンを購入し、条文のページもテストに利用しました。

 

(3) 過去問への挑戦

 必修テキストの全範囲が終了したところで過去問に挑戦しました。しかし、「必修テキスト」では穴抜き形式の暗記テストしか行っていなかったため、正誤判定問題を殆どまともに解くことが出来ず、結果半分程度の得点しか取ることができませんでした。過去問は古いものから時代を追う形で実施していき、平成30年の問題は試験本番前日まで解かずに残しておきました。最終実力チェックの模試として利用するためです。

 また、過去問を解いていく上で見つけた情報はどんどんe-Govで検索して必修テキストに書き込んでいきます。例えば役に立ったのは、港則法における特定港以外の港則法適用港において、海上保安庁長官等に対して許可を求めなければならない行為の一覧です。「危険物の積込」がよく誤りの選択肢として利用されますが、正しくは危険物の積み込みを行う場合当該港において許可は必要ありません。(詳しくは港則法の43条をご参照ください)。このように、情報を足していくことで頼りがいのあるテキストに成長していきます。

 

(4) 過去問の答え合わせ

 初めてテストを通しで解いてみたときは惨憺たる結果でした。答え合わせを終えた後は主に正誤判定問題の特に「誤」に着目して答え合わせを行っていきました。正しい記述に関してはそれが正しい内容ですから、その記述そのものを頭に入れてしまえばよいのですが、誤りの記述に関しては自ら必修テキストの記述や条文を参照し、どこの部分が間違っているのかを書きこんでいきました。例えば港湾運送事業法で頻出の誤った文章として「港湾運送事業者は、国土交通省令で定めるところにより、運賃及び料金を定め、あらかじめ、国土交通大臣の認可を受けなければならない。」というものがありますが、この場合正しい条文は「認可」ではなく「届出」です。こうした作業を過去問を解くたびに行っていき、平成30年度の過去問題を最後の模試として解き始める前に何度も確認しました。なかなか骨の折れる作業ですが、条文を一々引くことで法律学習への免疫も出来てかなり実力がついたと思います。

 

(5) オリジナル問題集への取り組み

 オリジナル問題集といえば聞こえはよいですが、ただ過去問5年分印刷したものを法令順に並べただけです。平成26年憲法平成27年憲法、…、平成28年の国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律、平成29年の国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律という順番で印刷してホッチキス留めしたものを用意し、その問題文にバシバシ正当をオレンジ色のボールペン(赤シートで隠すときに赤ペンだとうっすら透けて見えてしまうのですが、オレンジ色のペンならば完璧に見えなくなるのでオススメです。)で書き込んでいきました。正誤問題の誤りの選択肢については文章の誤った記述にアンダーラインを引いて、その下に正しい記述を書き込みます。法律別に並べ替えてどんどん問題を解いていくと、繰り返し出題される条文がかなり存在することが非常によくわかります。少し面倒ではありますが、過去問を並べ替えてホッチキス留めして問題集を作成されることを是非オススメします。

 

(6) 新範囲への対応

 2019年度の試験より試験科目が追加となりました。領海等における外国船舶の航行に関する法律(以下「外国船舶航行法」といいます。)船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律(以下「再資源化解体法」といいます。)及びこれらの法律に基づく命令の2つです。それぞれ4時限目、3時限目に追加されました。
 これらの法令は過去問が全く存在しませんので、条文を素読する他に対処法がありませんでしたが、「初回だし難易度の低い記号選択問題と正誤判定問題のみが出題されて、記述式の穴埋め問題は出題されないだろう」という楽観的な観測で挑みました。結果として大凡そのとおりとなったので運がよかったです。これらについてはそれぞれ20点分でしかありませんので、旧来の範囲で7割程度取ることが出来ていれば0点でも合格圏内に達することができるため、旧範囲を終えてから2~3時間程度眺めるという軽い勉強に留めました。
 外国船舶航行法の条文はかなり短く、特別な対策は必要ありませんでした。e-Govの条文を素読しつつ、海上保安庁の出していた資料(https://www.kaiho.mlit.go.jp/info/kouhou/h20/k20080611/k080611.pdf)を読んでイメージをしやすくしました。「継続的かつ迅速に」というフレーズは絶対に出題されるだろうなと踏んでいましたが、どちらも選択式で穴抜きとなって出題されました。旧範囲を勉強していることによって出題されそうな重要ワードへの嗅覚がある程度できてきますので、軽い勉強でも高得点を取ることが出来た方が多いのではないかなと思っています。一方で再資源化解体法の条文は長いですが、いかにも重要そうなキーワードがふんだんに散りばめられており、穴抜き選択式のみを想定した学習であればかなり対策のしやすい科目でした。「特定日本船舶」や「有害物質一覧表」、また船舶法にも現れる「船級協会」などの目立つワードが多いからです。今回の試験ではこれらの概要について目を通すだけで満点を取ることが出来る内容でした。今後また法令が追加されるとしても、こういった方法で学習すれば恐れるに足りないものと思います。

 

4.試験の合格点について

 基本的には60%を取ることができれば合格となりますが、全受験者の平均点が60%を超えた場合は当該平均点を超えることが出来れば合格となります。ここで、過去の平均点を見てみましょう。数字の出所は日本海事代理士会のHP(http://jmpcaa.org/main/)です。カッコ内が平均点です。

 平成30年(64.18%)、平成29年(58.83%)、平成28年(57.38%)、平成27年(57.97%)、平成26年(56.08%)、平成25年(54.73%)、平成24年(57.90%)、平成23年(62.35%)

 

 データ数が少ないので信頼性は微妙ですが、この8年間のみを考慮すると平均点は58.68%、標準偏差(母集団推定値)は3.13%です。つまり95%区間の上側は64.95%(+2σ)となりますので、易化傾向が顕著である等の特殊な事情がない限りは、65%以上取れる状態にしておけば安全圏である可能性が高いといえます。今回の試験の満点は240点ですので、156点以上既に取れる状態であれば、追加された範囲にノータッチだったとしても合格できる可能性が充分にあると思います。だから何だと言われればそれまでですが、ギリギリの時間で合格を狙っている方は一つの目標にしても良いのではないでしょうか。なお、得点源として重要なのは口述試験でも出題される「船員法」、「船舶職員及び小型船舶操縦者法」、「船舶法」及び「船舶安全法」の4つです。これらは最低でも15点、可能ならば18点を狙いたいところです。後ろの2つは先ほども書いたとおりカタカナ文語体で苦手な方も多いと思いますが、慣れてしまえば大したことはありません。

5.試験当日

 ご存知の方も多いとは思いますが、海事代理士試験は1時限目~4時限目まで分かれており、各時限の間の自由時間の間は外出が自由にでき、次の科目の勉強が出来ます。1・2時限目はそれぞれ4科目、3科目と数が少ないので、10~15分もあれば完答が出来ると思います。30分経過した時点で退室ができます。3時限目は科目数が多く大変ですが、30分以内に完答することが難しいわけではありません。いかに早くテストを切り上げて次の時限の準備に時間を割くか、ということがポイントになると思います。
 関東受験の方にだけお伝えできることですが、横浜合同庁舎の周りは意外とカフェの類が少なく、手ごろに時間を潰すことが難しいのです。が、庁舎1階のカフェはどの時間に行っても意外と空いていますので、毎休憩時間ごとに入るのもアリです。コーヒー1杯で300円程度だったと思います。お金を使いたくない方は当日の気候条件さえよければ、庁舎近くの北仲通北第二公園のベンチも気持ちよく、おすすめです。
 さて、具体的な当日のスケジュールは以下のとおりでした。

1時限目 9:00~10:30(1:30)
 休憩① 10:35~10:45(0:10)
2時限目 10:50~11:50(1:00)
 休憩② 11:55~12:55(1:00)
3時限目 13:00~15:10(2:10)
 休憩③ 15:15~15:25(0:10)
4時限目 15:30~17:40


 一目瞭然ですが、インターバルがかなり長いです。仮に各科目30分で退室した場合の休憩時間は以下のとおりとなります。

休憩① 1:10休憩② 1:30休憩③ 1:50


 つまり、最大で合計4時間30分を勉強に充てることができます。実際は食事や移動の時間を加味すると4時間弱になってしまうと思いますが、普段の基準で考えてみると1日4時間の勉強はかなり「しっかり目」に勉強する日の部類に入るのではないのでしょうか。この時間を有効に使えば得点のアップに相当寄与します。

 

6.最後に

 試験としての難易度は高くないのですが、取っ掛かりが悪く、また情報も少ないために突破しづらい試験かなと思います。しかし頻出の問題はある程度決まっていますので、過去問を繰り返し解くことで十分短期間合格を狙うことが可能だと思います。試験合格後は特に登録期限などもなく、好きなタイミングで海事代理士登録することができます。
  体験談と勉強指針とが入り混じった形でとりとめもなく書いてしまいましたが、指針が立てにくくて困っていた方のお力になれれば幸いです。

自己紹介

初めまして。Karmandと申します。簡単に自己紹介をします。

 20代後半のサラリーマンです。仕事にはやり甲斐を感じている反面、組織で働くことに苦痛を感じていて、人から雇われずに生きていけるように今は司法予備試験の勉強に励んでいます。資格の勉強をしている時は少しでも夢に近づけているような気がして、心が安らぎます。

 今は法律の勉強をメインでやっていますが、証券業界にいることもあってその分野のことや、大学で勉強していた外国語のことなど、色々と記事にしてみたいなと思っていることがありますので、ジャンルは絞らずに書いていこうと思います。

 そんなわけでこのブログは自分の雑多な知識のアウトプットの場として使おうと考えていますが、書き留めたものが誰かの役に立てば幸いです。